015.鎖


全てを、この鎖でつなぎ止める。


――永遠に。


嫌がったって、放してあげないんだから。




「鎖士はいりませんか?」

「え――?」


日々勉強に、部活に、そして恋に明け暮れる私の部屋に、其奴はいきなりやってきた。

身体中、至る所にじゃらじゃらと大きな鎖を巻き付けて。

言うところによると、其奴はなんと『鎖士』という職業の人らしい。

前髪に隠れて瞳を見ることは出来ないけれど。

其奴は相当美人のようだ。

……羨ましいなぁ。

そりゃ、私だって、ブスじゃない。

人並み以上は綺麗だって、言えるもの。

だけど。本当、羨ましい。


ああ、そんなことはどうだって良いか……。

哀しいが、どうしようもない。


「でも、鎖士って、何なの?」

「鎖士? うん、そうね」


じゃあ、例えば。

そう言って鎖士は自らの胸の前で、流れるように両手で色んなカタチを作り出す。

……ほんのちょっと後になって知ったことだけど、『印を組む』って言うらしい。

そして、彼女は最後に、ぱんっ、と両掌を合わせる。


すると、今まで鎖士のカラダに幾重にも巻き付いていた鎖がするすると床に下りて、まるで蛇みたいに動き出す。

そして、私の机の上にあったペンに巻き付いて、ペンを動かして、ノートの上に文字を書いた。


[こんなことが出来ますよ]


って。しかも達筆だ。

すごい。

まるで魔法のようだ。


「うわぁ……」


私は、心からの感嘆の声を上げる。

鎖士は、見える口だけをにっこりと微笑まして、誇らしげに言う。


「すごいでしょう? まだまだネタはあるんだよ?」

「え、どんなのがあるの?」


そうだね、と言って鎖士は考え込む。

そして、そうだ、と言わんばかりに掌を打って。


「魔法は次にも見せてあげるからコレを見てごらん」


そう言って鎖士は肩に提げていた大きなバッグを取り出した。

そして、私にバッグのチャックを開けるように促す。


「何が入ってるの?」

「いいから開けてみなさい」


そんなやりとりを交わして、私はチャックを開いた。

そこには……。


「わぁ……小さな人形かぁ、良くできてるなぁ」

「私の大切な、大切な宝物なんだよ」

「へぇ……そうなんだ」


鎖で出来た小さな球体のカゴに、小さな人形が入っていた。

にっこり笑っている人形もあったり。

今にも泣き出しそうな顔をしている人形もあったり。

何かにつんのめったのか、転びそうになっている人形も。

とにかく、いろいろあった。

どれも、みんな、まるで人をそのまま小さくしたかのような。

大きささえ除けば、本物と見まがうような、精巧な出来だ。


それらは全て鎖に絡め取られている。

そして、全ての人形が一つの大きな鎖でつなぎ止められていた。

私は、鎖士に問うた。


「これ、みんな貴方が作ったのかしら?」

「作った……っていうと語弊があるかもね。私は、ただ繋ぎ止めているだけだから」


鎖士は、そう言ってから、またにっこりと笑った。

私も、つられて一緒に笑った。




それからは、色んな魔法を見せて貰った。

鎖はいろんな形を作り出し、いろんな世界を見せてくれた。

それらは、とにかく不思議で。

とにかく面白かった。


――そして最後に、鎖士は。


「そうだね。コレを君にあげるよ」

「……小さな、鎖?」

「そう。この鎖には恋のおまじないがかかっているのよ」


永遠に離れない、恋のおまじないがね――。

そう言って、彼女は部屋から静かに立ち去っていった。




鎖はじゃらじゃら鳴っていたけれど。




次の日。

私はかねてからの計画を実行に移すことにした。

大丈夫。

昨日鎖士から貰ったこの鎖が私を助けてくれるから……。




――そして、それは今、お互いを抱き合う私たち二人を、つなぎ止めてくれる。







「ほら、これ見てみなさい。コレが、私の宝物」

「わあ、素敵な人形ですね、まるで、本物をそのまま小さくしたみたい」


少女の掌の中で、小さな一人の少女と、小さな一人の少年が抱擁しあっていた。

愛おしく。

どこまでも優しそうに。

二人を包み込む籠状の鎖は、その中に、時間をもつなぎ止めて。




ほら、この鎖は、全てをつなぎ止めてくれる――。

身体も、心も、涙も、愛も、時間も。

そして、それらは全て大きな一つの鎖で繋がっている。




ほら、なんて、素晴らしい連鎖(クサリ)なんだろう。




――――さあ、貴方も一緒に――――


fin

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